産業用ロボット
世界最大のロボット展示会「2001国際ロボット展」が開催される。近い将来に人間形ロボットが本当に新しい市場を形成するのか、自らの目で確かめてみるのもよいだろう。
日本ロボット工業会
主催する日本ロボット工業会は今回、「新世紀RT(ロボット・テクノロジー)飛躍宣言―モノづくりからパーソナルまで―」をテーマに掲げた。このテーマから分かるように、今回は産業用ロボットに加えて新しくパーソナルロボットの展示も開始する。これにより従来以上の数の出展者と入場者を集める計画だ。
メーカーの技術者
産業用ロボットの市場は現在、IT(情報技術)不況やデフレ懸念による設備投資の抑制の影響を受けて必ずしも好調とは言いがたい。加えて、ロボットの単価が次第に低くなっていることから、利益の獲得を巡るメーカー間の競争がますます熾烈になっている。あるメーカーの技術者は、「自動車メーカーと同じく今後は合従連衡が進み、淘汰される産業ロボットメーカーが出てくるだろう」と語る。
では、今回の国際ロボット展は業界のこうした苦しい現状を反映して盛り上がらないのか。そうではないようだ。「生き残りを賭けて各メーカーが必死に入場者にアピールする、極めて力の入った展示会になるはずだ」(先の技術者)。従って、出展する製品、技術の水準が上がる可能性が高い。
安川電機ロボット工場
Yaskawa Electric Corporation
産業用ロボットの課題は何か。安川電機ロボット工場開発部応用開発第2課課長の小川昌寛氏は、その一つとして「本当にユーザーの側に立った製品の開発」の必要性を挙げる。これまでロボットは作業の汎用性を武器に普及率を高めてきた。手首の先に付けるハンドや治具を換えれば溶接も塗装も搬送もできるから、生産ラインを変更してもロボットを使い回せるというのがロボットメーカーの“売り文句”だった。だが、価格が下がっていることもあり、ユーザーはロボットに汎用性ではなく専用性を求め始めた。ある一定の作業をこなすロボットを、専用機よりも安く入手しようという考えだ。
MOTOMAN-SP800
こうしたニーズをとらえた安川電機は、袋や箱に詰めた食品や部品などの比較的軽いワークを搬送するロボット「MOTOMAN-SP800」を開発、出展する。人手の作業を低価格で自動化したいというユーザーの声にこたえた。搬送用に限定し低コストにするために、ベースとなった従来のMOTOMANシリーズの前腕部から駆動源を1個省いて5軸垂直多関節ロボットとしている。それほど高速な動作も要求されないことから、モータの出力も下げ、その分価格を抑えた。
6軸垂直多関節
溶接作業だけでない
従来と同じく6軸垂直多関節ロボットで勝負する場合は、一つの作業に加えて“プラスα”の動作を付加する必要がある。例えば溶接ロボットであれば溶接作業だけでなく、ワークを取り出してテーブルなどに固定し、溶接した後、次のステーションにワークを移動させることなどだ。複数の作業をこなすことでそれぞれの作業を実行する専用機を省き、設備投資を減らすことができる。こうした付加価値をつけなければ、コストダウンに敏感な現在の不況時のユーザーを引き付けることは難しいだろう。
川田工業
人間形二足歩行ロボット「isamu(イサム)」
一方、新市場を創出するとして期待されているパーソナルロボットは今回のロボット展で話題を集めそうだ。例えば川田工業は人間形二足歩行ロボット「isamu(イサム)」を出展する。最速約2km/時で歩き、最高250mmの段差も昇れるロボットだ。
三菱重工業
そのほか、トミーやタカラなどがペットロボットを、富士通研究所(本社神奈川県川崎市)が人間形二足歩行ロボット「HOAP-1」を使ったパフォーマンスを見せるという。三菱重工業は人間形のコミュニケーションロボットを展示すると発表している。パーソナルロボット分野の出展も期待できそうだ。
軽いワークの搬送に特化したロボット「MOTOMAN-SP800」(安川電機)
1軸減らし低価格を実現した。
両足で歩行するロボット「isamu」(川田工業)
女性よりも小型に設計した。
竹内秀樹がロボット市場規模について解説します。
2025年に8兆円市場
右手を顔の手前まで上げて敬礼した後、HOAP-1は腰を左右に振ってバランスを取りながら、2本の足で歩いてみせた。来場者からは感嘆の声が漏れ、カメラのフラッシュが瞬く。
手を挙げて歩くパフォーマンス
手を挙げて、1mに満たない距離を歩くだけのパフォーマンス。にもかかわらずこれほど多くの人が集まるのは、物珍しいからだけではない。市場の将来性に大きく期待するためだ。
8兆円市場の創出
現在のロボットの市場規模は7000億円未満
日本ロボット工業会は「2010年に約3兆円、2025年には約8兆円までロボット市場が拡大する可能性がある」と言う。産業用ロボットが中心となって形成している現在のロボットの市場規模は7000億円未満だから、計算通りに進めば10年後には4倍以上、25年後には10倍を超えることになる。
HOAP-1
HOAP-1は、こうした市場に向けて小さな一歩を踏み出した。主にロボットの研究開発に向けて2001年9月から575万円で販売を開始し、既に大学を中心に14台を売った。開発グループの狙いはHOAP-1を提供し、研究開発のすそ野を広げることだ。すそ野が広がれば現在各社がバラバラに開発しているロボットのアーキテクチャを統一し、様々な企業がこのロボットの開発に着手しやすい環境を整えることができる。こうして将来必要となる介護用ロボットなどの開発につなげる考えだ。
AIBOと違う切り口
こうした個人向けを意識したロボット(パーソナルロボット)が今回の国際ロボット展の人気をさらった。ソニーのペットロボット「AIBO」に続くのは何か?AIBOと違う切り口をどう示すのか?そこに関心が集中する。
役立たないAIBO
その答えもおぼろげながら見えてきた。方向性は二つ。HOAP-1を代表とする、2本足で歩く人間形ロボットと、医療・介護分野の端末に使うペットロボットだ。両者とも、娯楽向けの“役立たない”AIBOとは異なり、家庭や会社などの人間が居住する空間で稼働し、実益をもたらすロボットとして市場投入の機会を伺っている。
isamuは研究開発向け
HOAP-1と同じく、一般来場者が必ずといってよいほど足を止めるのが、川田工業が出展した人間形ロボット「isamu」の前だ。テーブルの上を歩く小さなHOAP-1とは違い、isamuは身長146.8cm×幅60.4cmと標準的な日本人女性よりもやや小さなサイズ。人間とほぼ同じ大きさにすることで、人間と同じ空間で作業する将来の人間形ロボットの開発に必要な様々なノウハウを蓄積しやすくなる。こうした狙いから、川田工業は研究開発向けにisamuを販売する。
isamuの特徴
特徴は、次の五つの機能を実現していることだ。
- (1)速度を変えながら滑らかに旋回して歩く「可変速スラローム歩行」
- (2)最大40cm/秒の通常歩行
- (3)最大60cm/秒のつま先歩行
- (4)最大25cmの段差昇降
- (5)最大約20Nまでの把持
このうち、特に(1)~(4)までの二足歩行制御に特に力を入れている。ロボットの大きさと実現した機能からみて、isamuのライバルはホンダの子供形ロボット「ASIMO」だろう。
実演せず
ビデオ
残念なのは、実際の動きを積極的に公開するASIMOとは異なり、isamuはこれら全ての機能をビデオを使った紹介にとどめたことだ。テレビ画面の中では確かに稼働しているものの、実物のロボットは台に固定したまま。当初川田工業は“実演”するつもりだったが、安全性を重視して諦めた。「パソコン用の無線LANを使ってisamuを制御するため、ほかのブースで動く産業用ロボットの電波の影響を受けて誤動作する恐れがあった」(同社)からだ。
役立つペットロボ
このように人間形ロボットは注目度は高いが、商品化に際して乗り越えるべき壁も高い。実際HOAP-1とisamuがそろって研究開発用と銘打ったことは、裏返すと人間形ロボットを製品化するまでの道のりが長いことを表している。こうした事情を踏まえ、商品化の敷居が相対的に低いペットロボットの開発に力を入れるメーカーも多い。
パナソニックのテディ
例えば、松下電器産業(パナソニック)が展示したペットロボット「テディ」。機械や電気、電子部品から構成される、頭や手を動かすためのハードウエアの“骨組み”に、子熊の形をしたぬいぐるみを被せた。だが、その可愛らしい外観とは裏腹に、用途は極めて“硬派”。パナソニックは、一人暮らしの高齢者の安全や健康状態を監視するためのコミュニケーション支援システム端末としてテディを開発した。ISDN回線などを介してテディを外部に設けた支援センターにつなぎ、高齢者の生活を間接的に監視する。
高齢者に話し掛ける
テディは対話機能を内蔵し、高齢者と円滑な会話をこなす。あいさつや簡単な問いかけに応えるのはもちろん、コミカルな動きを見せながらときどき自発的に高齢者に話し掛ける。
プライバシーを守る
この対話の様子はISDN回線などを通して支援センターに送られ、コンピュータの画面に表示される。このとき、テディが発した言葉はそのまま文字に変換するが、高齢者の言葉は5パターンに分類し、その分類番号だけを伝送する。プライバシーを守るためだ。支援センターに居るオペレータは、テディの発言と分類番号のやりとりから高齢者の健康や生活状態を類推することになる。
ぬいぐるみ
「寂しい」
パナソニック(松下電器)は大阪府池田市に設立した有料の老人ホーム施設で、テディを使って実証実験を進めている。ユーザーからは実験を終了して回収する際に「寂しいという声が出る。こうした反応はテディを子熊形のぬいぐるみに仕上げた効果だろう。『テディベア』の例でも分かるように、子熊はぬいぐるみの王道で親しみを感じる人が多い」(パナソニック)。つまり、親和性の高い(親しみやすさに優れる)ぬいぐるみはユーザーに愛着を感じさせ、機械を使うことに対して抵抗を感じるユーザーに特に有効と松下電器は考える。
メカメカしい外観
インタフェースロボット
ただし、パナソニックはユーザー層を広げるために「メカメカしい」外観の同ロボット「インタフェースロボット」も開発、テディとともに参考出品した。通常の電子機器と同じく、樹脂を射出成形した筐体きょうたいで身を包む。基本機能はテディと同じ。20代後半から30代の男性をターゲットにこうした形のロボットをデザインした。松下電器は今後も実証試験を繰り返し、テディとインタフェースロボットの商品化の時期を探る。
バイタルデータを取得
三洋電機「Hopis」
自動的に動かないため正確にはロボットとは呼べないが、テディやインタフェースロボットと同じく実際に役立つことを目標として三洋電機が開発したのが「Hopis」だ。Hopisは耳の垂れた犬をモチーフにデザインしたぬいぐるみ型の健康管理端末。ぬいぐるみの各所に体温計や血圧計などを内蔵し、ユーザーから体温や血圧などのデータ(バイタルデータ)を取得する。取得したバイタルデータはPHS回線を使って外部に設けた健康管理用のサーバーに転送、このサーバーには医師や栄養士がアクセスし、届いたバイタルデータの様子を見ながらユーザーを遠隔地から間接的に診療する。一人暮らしの高齢者や、糖尿病や心疾患などの生活習慣病を抱える人を対象に商品化を狙う。
健康管理
生活習慣病の患者
Hopisは対話機能を搭載し、ユーザーと会話しながら毎日の健康状態を管理する。バイタルデータを取得する際に人間は、多少“構えてしまう”。だが、Hopisはぬいぐるみ型の端末なのでユーザーに親しみを与え、スムーズにバイタルデータを取ることができる。生活習慣病を持つ患者はこれまで定期的に診療に行く必要があったが、Hopisを使えばその必要がなくなる。バイタルデータに異常があった場合のみ診療に行けばよいからだ。その結果、診療所に赴く手間やコストを削減できる。
発売日も価格も未定
ただHopisは参考出品のため、発売日も価格も未定。三洋電機は「1年半ぐらいをメドに発売したい」と言う。
Robo Link
イワヤ、ダイヘン、タカラ、トミー
単体の製品だけでなく、パーソナルロボットのブースでは将来のロボット普及期を見据えた技術も登場した。メーカー間の垣根を取り払い、複数の異なるロボットを一つのネットワークにつないで全てのロボットを有機的に動かす「Robo Link」だ。日本ロボット工業会の中のワーキンググループであるロボットリンクコンソーシアムが提唱し、現在イワヤ、ダイヘン、タカラ、トミー、富士通大分ソフトウエアラボラトリ、富士通研究所、松下電器産業が賛同している。
富士通の「ハローキティのPCフレンズ」
Robo Linkでは、異なるメーカーが開発した各ロボットを有線または無線を使って1台のパソコンで制御する。今回は実現できるパフォーマンスの一例として、ロボットとパソコンを有線でつないでオーケストラ演奏を表現して見せた。登場したロボットは、イワヤの「おともだちっくワンちゃん」と「リズム隊」、ダイヘンの「Rb007」、タカラ「ドリームフォース01」と「パラレンジャー」、トミーの「Beep&Bopp」と「TXR002」、「DOG.COM」、富士通グループの「ハローキティのPCフレンズ」、松下電器産業の「こうちゃん」だ。
連係プレー
Robo Linkを採用したロボットは外部に見えるようにRobo Linkマークを付ける。このマークを持つロボット同士は、協調作業し、個々のロボットの機能を超えた新しい使い方を実現する。要は“連係プレー”によって、それぞれのロボットが持つ長所を最大限に活かすことができる。
例えば上記の音楽演奏のほか、次のような使い方が考えられる。
冷蔵庫のドアの開きっ放し防止
知覚を持つロボットが、開いたままの冷蔵庫のドアを発見すると、動力を持つ別のロボットに指示を出してそのドアを閉めさせる。
侵入者警告
視覚や聴覚機能を持つロボットが侵入者を発見し、表示・報知機能を持つロボットにその情報を伝えて侵入者がいることを人間に知らせる。
演劇
各ロボットに役を割り当て、簡単な寸劇を演じさせて人間を楽しませる。
Robo Linkの根底には、技術をオープンにして参加企業を増やし、市場の拡大を図る狙いがある。冒頭の兆単位の巨大な市場規模は、こうした“仕掛け”の成功も計算に入れたものだ。
産業用ロボットメーカー
家電メーカーや玩具メーカーではない
様々な試みがあるものの、パーソナルロボットの市場が花開くのはもう少し先になるだろう。現時点ではロボット市場の中核は産業用ロボットが担っている。この分野の主役は上記のような家電メーカーや玩具メーカーではなく、産業用ロボットメーカーだ。
設備投資の抑制
ところが、“薔薇色の将来”を期待されるパーソナルロボットとは違い、産業用ロボットには今、冷たい風が吹き付けている。まず、IT不況やデフレを懸念した設備投資の抑制の影響を直に受けて需要が減っている。加えて、ロボットの単価が徐々に下がり、利益を獲得することが難しくなってきた。その結果、競争が熾烈を極め、「今後は合従連衡が進んで淘汰されるメーカーが現れる」(あるロボットメーカーの技術者)との声も上がり始めた。
コスト削減効果
産業用ロボットメーカーが生き残りの切り札と考えるのは、ユーザーにもたらすコスト削減効果だ。ただし、「価格を単に安くするだけではジリ貧になるばかりで、産業用ロボットメーカー自身の存続が危ぶまれる」(上述の技術者)ため、価格以外の要素でコストメリットをユーザーに提案する方法の案出に各メーカーは知恵を絞っている。
ダイヘン
治具が要らない溶接システム
好例がダイヘンが出展した「フレキシブル治具レス溶接システム」。専用の治具を使う代わりに6軸垂直多関節ロボットにワークを把持させ、溶接ガンの方には従来と同じく溶接ロボットを使う。ワークに応じて異なる高価な治具を作製する必要がないので、溶接工程のコストを下げることができる。ラインの変更などで溶接工程が不要になった場合には、把持する側のロボットを別の作業に転用することもできるから、トータルでみた投資コストも削減できる。
不二越
Almega EX-V50
この溶接システムで興味深いのは、ワークを把持するロボットが内製ではなく、不二越製であることだ。溶接ロボットを主力とするダイヘンは不二越と提携し、それまで弱かった中・大型の汎用6軸垂直多関節ロボットを不二越から受け入れることを決めた。つまり、提案した溶接システムはダイヘン製と不二越製の異なる2台のロボットを使う。ただし、制御は全てダイヘンが担当し、ロボットもダイヘンのブランドで販売する。ダイヘンは把持する方のロボットを「Almega EX-V50」、溶接ロボットを「Almega EX-V6」と名付けた。
保守
通常、異なるメーカーのロボットを採用するとメンテナンスが煩雑になる。だが、「不二越から仕入れたロボットの部品や操作に関しては熟知している。従って、保守に関しては(ダイヘンで)完全に対応できる」とダイヘンは言う。
バラ積みの板金をつかむ
FANUC
一方、FANUCはバラ積み状態の歯車などのワークを治具を使わずにつかむことができる6軸垂直多関節ロボット「知能ロボットI-21i」の作業対象を拡充、板金にまで対応させた製品を公開した。自動車のドアパネルなどの板金のワークを、ある程度乱雑な状態でもつかんで搬送することができる。価格は600~800万円。既に自動車メーカーに納入実績があるという。
これまで板金はハンガーにつり下げた状態で現場に運び、いったん専用の治具に付け替えて整列させたうえでロボット側に提供していた。この方法では、高価な治具を異なるワークごとに用意する必要があり、ワークを整列させる作業に手間が掛かることから、ユーザーのコスト負担が高かった。
立体センサ
I-21iは視覚センサとして「立体センサ」を内蔵している。ハンガーにつり下げられた状態でトラックなどから取り出した板金にレーザを照射、板金の3次元的な位置と姿勢とを検出する。その結果、整列していない板金でもしっかりとつかむことができる。
視覚センサ
これに対して従来の視覚センサは、モノクロのCCDカメラを使っていた。白と黒の画像からワークを検出する方法で、平面的な位置情報を知ることはできるものの、奥行き方向の位置情報は認識できない。このため、高さ方向に乱雑に積まれたワークをロボットが把持することは不可能だった。
豊田工機
自動車のエンジンのシリンダブロック
治具レスではなく、加工分野で“専用機レス”に挑戦したのが豊田工機のロボット生産システム「FINISHING CELL FI-300」だ。1台のロボットがワークを把持・搬送し、同システム内に設けたそれぞれの専用機に近付けてワークを加工する。狙いは工程の集約がもたらすコスト低減だ。対象とするワークは、自動車のエンジンのシリンダブロック。鋳造機から出されたシリンダブロックの(1)砂落とし(2)湯口切断(3)バリ取り―の3工程を、このロボット生産システム1台でこなす。
ワークの把持や搬送のロボット生産システム
実は、切削を含めたワークの把持や搬送にロボットを使ったのは、このロボット生産システムが初めて。実現のポイントは、耐振動性を向上させたことにある。ハンドの付け根に空気式のダンパを使う、偏心回転を防ぐために振動方向に対して垂直にモータ軸を設置する―などの工夫を盛り込んだ。従来のロボットは振動に弱く、加工分野のワークのハンドリングには使えなかったためである。
多関節ロボット
このシステムの心臓部は、いわゆる6軸“ハイブリッド”多関節ロボット。通常の6軸垂直多関節ロボットとは違い、ベース部分から数えて1~3軸までは水平多関節、4~6軸までは垂直多関節を使ったのが、その名前の由来だ。
回転する工具にワークを押し当て湯口部分を切削
作業の様子は次の通り。まず、ロボットのハンドがシリンダブロックをつかむと、エアチッパ(空気圧シリンダを使った振動機)に当て、その振動でワークの表面に付いた砂を振り落とす。続いてロボットは、回転する工具にワークを押し当て湯口部分を切削。その後ロボットはワークをバリ取り機に近付け、切削個所に残ったバリを除去して加工が完成する。
コストダウンの効果は5000~6000万円
従来こうした工程は個別に設けた専用機を使って処理していたため、設備投資費が高かった。新しいロボット生産システムは「工程を1/3に集約できることから、実現するコストダウンの効果は5000~6000万円」(豊田工機)と大きい。ロボット生産システムの価格が2800万円だから、ユーザーの興味を十分引き付け得る。
世界一の速さを競う
サイクルタイムを縮めることでコストダウンを図る、最も分かりやすい“定石”も健在だ。この方法では当然ロボットの動作速度をいかに高めるか、その一点で勝負が決まる。ただし、高速という付加価値はありふれているため、垂直多関節ロボット、水平多関節ロボットともに世界一の速さでなければユーザーを振り向かせることは難しい。
「SH」シリーズ
6軸垂直多関節ロボットを使ったスポット溶接ロボットで「世界最速」を達成したのが、不二越が出展した「SH」シリーズだ。主に自動車のボディを組み立てる際に使う。50mm間隔でスポット溶接する際のサイクルタイムが0.76秒と小さい。不二越の従来のロボットが0.8秒だったから、新しいロボットはそれを0.04秒縮め、「世界で最高速」(不二越)を確立した。来春に発売する予定で、価格は現行タイプと同程度を目指すという。
Intel社の「Pentium III」
高速化のポイントは、ロボットの動作と溶接ガンの作業を一つのコントローラで制御すること。ロボットと溶接ガンで別々のコントローラを使っていた従来の方法とは違い、新しいロボットは1台のコントローラが指令を出す。こうすることで、ロボットと溶接ガンの両者の動作開始時間を完全に同期させることができ、上記の通りサイクルタイムを短縮することができた。これはCPUの性能が向上した結果。採用したCPUは、米Intel社の「Pentium III」。動作周波数500MHzのものを組み込んだ。OSには米Microsoft社の「Windows NT」と、リアルタイムOSの二つを使った。ただしリアルタイムOSの詳細は明かしていない。
アデプトサイクル0.29秒
4軸水平多関節ロボットの分野で「世界一の速度」をマークしたのが、デンソーの「HM-40702E」だ。ワークをつかみ上げて水平に移動させた後、再びワークを置く作業を想定したアデプトサイクル(標準サイクルタイム)で0.29秒を記録した。長さ700mmのアームを持ち、可搬質量20kgの中型水平多関節ロボットで実現している。同社が保持していた「従来の世界記録は0.39秒」だったから、新しいロボットはそれを0.1秒更新したことになる。用途は、自動車部品などの組み立てや搬送など。動作速度を高めることでこうした工程のサイクルタイムを短縮し、コストを圧縮する。価格は239万円。
デンソー
高速化するうえでデンソーが重視したのが減速機だ。そのためにバックラッシをなくした減速機「ノーバックラッシュギア」を内製、搭載した。これに対して他社の水平多関節ロボットの多くは、市販の遊星歯車機構やハーモニックドライブ機構を使う。そのため、バックラッシを完全には除去できず動作速度の向上の足枷あしかせになっていた。
教示の手間を省く
産業用ロボットは使用する前に段取りのための時間を取られる。ある作業を実行するには、あらかじめ作業者がロボットに動き方を教えなければならないからだ。この教示作業は意外に面倒で、特にケーブルやガンがロボットの外側にむき出しになっているアーク溶接ロボットでは、ケーブルやガンが周囲の障害物にぶつからないように細かなチェックを要する。
安川電機のアーク溶接ロボット「MOTOMAN-EA1400」
この問題を解消するのが、安川電機が開発したアーク溶接ロボット「MOTOMAN-EA1400」だ。6軸垂直多関節ロボットのパイプ状になった各アームに溶接ユニットのケーブルを通し、手首の中心に溶接ガンを内蔵した。ロボットが動作する際にケーブルが周囲の機器などに絡まることがなく、溶接作業をスムーズに進めることで段取り時の教示作業が簡単になる。この結果を「時間に換算すると従来の約1/2」(不二越)。段取り時間を短くすることで溶接工程の効率を高め、コスト低減に貢献する。
価格は340万円
対象とするワークは、自動車の足回り部品やマフラなどの排気系の部品、シートフレームなど。価格は340万円。
三菱重工業
世界最軽量
同じく段取り時間を短縮するのが、クリーンルーム向けに三菱重工業が開発した6軸垂直多関節ロボット「PA-10」だ。可搬質量10kgのタイプで、質量は36kgと「世界最軽量」(三菱重工)。クリーンルーム内での半導体ウエハなどの搬送に使う。軽くすることでライン変更時の移動作業を楽にした。価格は340万円。
PA-10は、ロボット本体のすき間をシールし、内部で発生する粉塵が外に出ないようにした。従来とは違い、粉塵を吸い取り外への流出を防ぐ複雑な吸引機構を内部に設けないから質量を抑えることができた。
- 2001国際ロボット展
- 2001年11月13日から16日までの4日間、東京・有明の国際展示場(ビッグサイト)で開催された。
- ISDN回線
- Integrated Services Digital Network。総合サービス・デジタル通信網。電話やファクシミリ、インターネット接続などのサービスを全て取り扱うデジタル通信網。
- ミニサイズの人間形ロボット「HOAP-1」(富士通研究所、富士通オートメーション)
- 人間形ロボットの研究開発を進める際のプラットフォームに使う。
- 人間形ロボット「isamu」(川田工業)
- 人間とほぼ同じ大きさに設計した。体重は55kg。
- 高齢者向けコミュニケーション支援システム端末に使うペットロボット「テディ」(松下電器)
- 一人暮らしの老人を見守る。
- テディの外観を変えた「インタフェースロボット」(松下電器)
- 内蔵した機能はテディと同じ。デザインを変更することで男性を中心にユーザー層の拡大を狙う。
- ぬいぐるみ型の健康端末「Hopis」(三洋電機)
- バイタルデータを取得し、健康管理用のサーバーに送る。
- 異なる複数のロボットを有機的に動かす「Robo Link」を採用したロボット群(ロボットリンクコンソーシアム)
- オーケストラ演奏を演じて見せた。実際には楽器を操るのではなく、音楽に乗って手足などを動かした。
- 治具レスの溶接システム「フレキシブル治具レス溶接システム」(ダイヘン)
- 左に見えるロボットがワークを把持する。このロボットは不二越製。
- 整列していない板金ワークを搬送できるロボット「知能ロボットI-21i」(FANUC)
- 専用の治具にワークを積み替える必要がない。
- 工程の集約でコストを抑えるロボット生産システム「FINISHING CELL FI-300」(豊田工機)
- 加工分野のハンドリングに初めてロボットを採用した。
- スポット溶接ロボット「SH」シリーズ(不二越)
- 世界最速のスポット溶接ロボット。
- 4軸水平多関節ロボット「HM-40702E」(デンソー)
- 世界一のアデプトサイクルを記録した。
- 教示時間を短縮するアーク溶接ロボット「MOTOMAN-EA1400」(安川電機)
- 溶接ユニットのケーブルとガンをロボット内部に収納した。
- 世界で最も軽いクリーンルーム向け6軸垂直多関節ロボット「PA-10」(三菱重工)
- 生産ライン変更時の負担を軽減する。
ホンダの「ASIMO」が進化
ホンダは子供形ロボット「ASIMO」の二足歩行技術を向上、東京・青山にある本社1階ホールに向かう29段の階段を自律的に滑らかに歩み降りる機能を実現した。ASIMOをレンタルするための機能強化の一環で、平地以外での歩行を充実させることを狙った。
長い階段をスムーズに昇降
これまでASIMOは、階段の高さや幅などの情報を人間があらかじめ入力することで、数段程度の階段を昇降していた。だが、29段もあると誤差が大きくなり、こうした教示は意味をなさなくなってしまう。そこで進化したASIMOは、階段の縁から爪先を少し前に出しながら踏みしめる。すると足裏に設けた圧力センサが圧力分布を計測し、階段の縁の位置を知ることで、階段を転ばずに歩くことができる。
レンタル料金は1年で約2000万円
1日では200万円
レンタル先は現在、インクス(本社東京)と日本IBM、日本科学未来館の三つ。レンタル料金は1年で約2000万円、1日では200万円程度。2002年1月からはホンダ本社1階でも受け付け業務に就く。
段階段を降りるASIMO
足裏の圧力センサを巧く利用して、自律的に両足を動かす。
毛皮vs樹脂
ユーザーはどっちを好む?
商品化で先行したペットロボットでは、外観の差別化として「毛皮vs樹脂製の筐体きょうたい」が注目を集めている。毛皮の代表は、オムロンが販売を開始した猫型ロボット「ネコロ」だ。“本物志向”を目指し、実存する猫である「アメリカンショートヘア」を模した人工の毛皮を作り、一体ごとに手作業で貼り付けている。オムロンが毛皮にこだわるのは、人間との物理的な触れ合いを重視したため。「本物の猫がそうであるように、人工の毛皮を撫でたときの感触は、人間に気持ち良さと精神的な安らぎを与える」(オムロン)と考えた。
「ラッテ」と「マカロン」
ネコロの対極に位置するのが、ソニーの「AIBO」シリーズだ。全て樹脂を射出成形して作る筐体でデザインする。だが、樹脂を使うとどうしても「メカメカしい」印象を与え、特に女性の受けがよくない。そのため、ソニーは第3弾である「ラッテ」と「マカロン」において、樹脂を使うものの、丸っこいデザインを採用して可愛らしさを高めた。こうしてそれまで少なかった20~30代の女性ユーザーの訴求力を高めた。
近未来的なデザイン
もちろん顧客比率の高い、機械やコンピュータに強い“マニア”も無視はできない。こうしたユーザーは従来のメカメカしい外観を好む傾向が強い。従ってソニーはマニア向けに、メカメカしさを強調した第4弾「ERS-220」を発売した。近未来的なデザインを採用することで新奇性を高め、主に男性のファンの獲得を狙う。
- 猫型ロボット「ネコロ」(オムロン)
- 人工の毛皮を被せ、親和性を高める。
- AIBOの第3弾「ラッテ」と「マカロン」(ソニー)
- 曲率を持つ樹脂の筐体で可愛らしさを強調した。
- AIBOの第4弾「ERS-220」(ソニー)
- マニア向けに近未来的なデザインに仕上げた。